『ほとんど記憶のない女』(リディア・デイヴィス)の感想・書評
基本情報
著者:リディア・デイヴィス
訳者:岸本佐知子
ジャンル:文学
刊行年:2011
ページ数:214
本体価格:1200円
評価
かなり面白い(★★★★)
感想・書評
作家の頭を覗いているような短編集
一風変わった短編集。著者はニューヨーク在住のフランス文学翻訳家。
214ページの中に、51編もの物語が詰め込まれている。ものによっては「禅問答のような」(裏表紙のあらすじより)数行の超短編もある。
初めの方は、思いついたことを書き留めているだけのような印象を受ける。ストーリーにしていくためのネタ帳のようである。
それが、作家の頭の中を覗いているみたいで面白い。
川上未映子のエッセイを思い起こさせる
全体的には、エッセイを読んでいる感覚に近い。感情的(情緒不安定といってもよさそう)な女性を乾いた視点で描いたものがいくつもある。
情緒不安定と一言でいったが、絶妙に「ああ、ちょっとわかる」という性格が描かれている。人に言えないことを代弁するようで、少し共感が持てる。
川上未映子の作品(特にデビュー作の『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』)と近いと思う。
ただし、これには「ひねくれたユーモア」(あらすじより)が含まれている。正直いって、私にはジョークかどうか判別がつかないものも多い。
個人的に好きなのは、本書の中では長めの「ロイストン卿の旅」という一編。主人公がロシアを旅していくストーリー(日記)が30ページ描かれている。
あきらかに空想なのに、不思議なリアリティがあり、さらにドライな筆致がロシアの持つイメージとリンクする。
翻訳が素晴らしい
また、本書は翻訳が非常にうまい。語彙や表現もそうだが、語尾や読点などにもすごく気を配っている。
川上未映子を連想させるくらい少し独特だが、違和感はない。読ませる勢いのある名訳だと思う。