『日々の暮し方』(別役実)の感想・書評
基本情報
著者:別役実
ジャンル:エッセイ、ナンセンス
刊行年:1994(単行本は1990年)
ページ数:188
本体価格:950円
評価
傑作(★★★★★)
感想・書評
本書の概要
さっそくだが、裏表紙に書かれている内容紹介文を引用する。
「身近な作法が分からないで毎日を困惑と不安で過ごしているアナタ。…(中略)…来し方を反省するも良し、来るべき未来に思いを馳せるのもまた良し。充実した人生をと願うすべての人に捧げる…(中略)…『正しい日々の暮し方』。」
こんなこと、一つも書かれていない。
しかし、本書(あるいは別役実)の魅力に憑りつかれた人から見れば、本質を突いた紹介文である。
ここまで読んでいただいても全然内容が伝わっていないと思うが、開き直ってしまえば説明しようとするほどドツボにハマるからしょうがない。
とにかく意味がない
もう少しがんばって解説すると、非常に論理的に、まったく意味のないジョークを繰り返している本である。
エッセイにカテゴライズされてはいるが、本人が実際に経験した日常はほとんど含まれていないと思う。
第3節「正しい亀の飼い方」より
理解の促進にはならないと思うが、具体的にある一編の一部を引用してみる。
爬虫類を飼うことが、現代人の好みに合っているらしく、このところ静かなブームになっている。犬や猫やカンガルーなど哺乳類は、馴れ馴れしすぎてほとんど人間とつきあっているのと変わるところがないし(犬や猫を飼うならお友達を作った方がいい)、かと言って鳥類や魚類は、存在感が希薄で「飼っている」ことの手応えが感じられない(インコや金魚を飼うならさぼてんの鉢を置いておく方がいい)。となると、これはどうしても爬虫類である。(中略)
ニューヨークで一時鰐(ワニ)を浴槽で飼うことが流行し、人々の入浴の習慣をいちじるしく制限したことがあったが、鰐はそこに安住することなくやがて浴室から下水道に進出し、今やニューヨークの地下水道は鰐の王国となりつつある、という事例がある。
蛇足だが、上記は「ニューヨーク」と「入浴」をかけている。実にくだらない。
世界がひっくり返る、は言い過ぎだが
このような無意味な文章が、188ページ続く。
初めて読んだときは、「世界ってなんだろう」と思うほど意識が混濁した。論理パラドクスの泥沼にはまってしまう(というと聞こえがいい)。
「お父さんのファンなんです」と言う人に対して、「あの面倒くさい文章ねぇ」と返していた。
これも核心を突いていて、しょうもないことを淡々と真面目な顔をして語るところが本当に面倒くさい。
世間をかしげて見る、の極北にある傑作。