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『飢えたピラニアと泳いでみた へんであぶない生き物紀行』(リチャード・コニフ)の感想・書評

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基本情報

書名:飢えたピラニアと泳いでみた へんであぶない生き物紀行
著者:リチャード・コニフ
訳者:長野敬、赤松眞紀
出版社:青土社
ジャンル:生物学、紀行文、エッセイ
刊行年:2010
ページ数:328
本体価格:2400
 

評価

かなり面白い(★★★★1/2)
 

感想・書評

動物と仲がよすぎる人たち

タイトルから受ける印象は「クロコダイル・ハンター」(スティーブ・アーウィン)のような人物だったが、当たらずも遠からずといった感じである。
著者はナショナル・ジオグラフィック誌などに寄稿しているライター。芝居がかった文体は海外のノンフィクション・ライターらしい。
 
いきなり脱線するが、『ファーブル昆虫記』がこの分野に与えた影響はすさまじいと思う。この著者も影響を受けているかもしれないが、とりあえず読む側にファーブルが頭にちらついたのは間違いない。あそこまで突き抜けた人物がいると、後進の作家は大変だ。
日本にもムツゴロウさんがいるが、生物に対する愛情というのは、一般に受け入れやすいものであるとも思う。
 

生物学者たちの異常な愛

さて、まずは帯のコピーを引用する。
「ためしに食われに行ってきた?!「人食いピラニア」の伝説は本当か?チーターを飼うことはできるのか?毒アリの「一生忘れられないような痛み」とはどんなものか?珍獣にも負けない強烈な個性の持ち主たちが、体を張って挑戦してみた!死をも恐れぬ好奇心で、驚きの事実を明らかにする大冒険!」
 
このコピーで重要なのは、「珍獣にも負けない強烈な個性の持ち主『たち』」という部分だ。
著者が同行する生物学者たちがおかしい。まさに「異常な愛情」である。
 
たとえば、「痛みの王者(キング・オブ・ペイン)」という章がある。
ここに、ジャスティン・O・シュミットというアメリカの昆虫学者が出てくる。「彼は『痛い!』の度合いを1(ちょっとした火花)から4(確実に機能を損なう)までの尺度で表した専門家のガイドである『ジャスティン・シュミットによる痛み指標』を編んだことでよく知られている」(86ページより引用)
 
その「痛さレビュー」を一つ挙げると、大型のスズメバチに刺される痛みをこう評している。
「豊かで、力強く、わずかにカリカリしている。回転ドアで頭を潰されるのに似ている」
 
このように生物の生態を介して、人間の変態たちを観察していくところが妙味。
 

やっぱり生き物は面白い(夏休みに出かけたくなる)

といっても、いろいろな生物の生態には本当に驚く。主に昆虫に驚くことが多かった。
巣を守るために、自爆する虫もいる(アリの一種)。
 
リチャード・コニフは芝居がかってはいるが、気が利いているのも事実だと思う。
クラゲは95パーセントが液体でできているらしいのだが、「クラゲは事実上、組織化された海水」という表現はとても新鮮だった。
 
翻訳も丁寧で、生物名の索引もちゃんと掲載されている(このへんもファーブルの影響だろう)。
「命ってなんだろう」みたいな青臭い感情も湧けば、「うわ痛い痛い」と顔がひきつることもあれば、「こいつら本当バカだわ」と笑えるところもある。
人間社会に疲れたときと、夏休みに最適の一冊。