雑な読書(ザツドク)

ノンジャンルで、本の感想や書評を書いています

『堤清二 罪と業 最後の「告白」』の感想・書評

f:id:zatsudoku:20160905002813j:plain

基本情報

書名:堤清二 罪と業 最後の「告白」
著者:児玉博
出版社:文藝春秋
ジャンル:伝記、ルポ
刊行年:2016
ページ数:192
本体価格:1400円
 

評価

かなり面白い(★★★★)
 

感想・書評

西武グループと堤一族の凋落

堤清二は、西武グループを築き上げた堤康次郎の長男。康次郎の奔放な女性関係は有名な話だが、清二は3番目の妻・操との間にできた子供である。前西武鉄道・コクド会長の義明は未入籍の別の女性(石塚恒子)が生んだ子で、清二の腹違いの弟(次男)にあたる。ちなみに、本当は清という長男がいたが、廃嫡されている(清は最初の妻と、2番目の妻の間に関係があった、また他の女性との子)。本書の冒頭に家系略図があるので、参照してほしい。
 
2004年、西武グループは総会屋への利益供与の発覚を発端に、有価証券報告書の虚偽記載が発覚、総帥の義明が逮捕される事態にまで発展(実際は前年に会長を辞任)し、みずほグループが経営再建に乗り出すこととなる。本書でインタビューに答えている清二は経営の一線から身を引いていたが、一族の危機に際し、康次郎が仕組んだ複雑な持ち株の形を盾に、新経営陣との闘争を始める。
本書では、なぜ隠居していた清二が行動に出たか(しかも確執があるとみられていた義明を擁護するような行動をとったか)、インタビューで尋ねるものである。タイトルに「最後の告白」とあるように、インタビューは最晩年の2012年に行われている(清二は2013年没)。
 

強烈な父の影響

ある程度知っていたことではあるが、あらためてきちんと読むと、この一族が歪んでいることがよくわかる。当然、ほとんどは康次郎に起因する。
資産家や権力者が複数の女性と関係を持つのは珍しいことではないだろうが、堤家の場合は西武グループの跡取りがかかっている。政界とも結びつきが強く、相続問題としては規模が巨大すぎる。康次郎は火種を自らばら撒いているように見える。
 
西武グループの主要事業(鉄道、ホテル、不動産)は義明が継いだとはいえ、清二もセゾングループの代表として、西武百貨店の拡大、パルコの開業、サンシャインシティの開発などを手掛けた。インタビューでは自分が成し遂げた功績に強い自負も見え、義明に対する恨みや羨望は出てこない。
結局、清二を支配しているのは、父・康次郎だった。
 
一人の人間が一人の人間に対して抱く愛憎で、こんなに強烈な話はめったに聞くものではない。感情は矛盾するものだと思うが、相反する思いをためらいなく発言する。康次郎は非情な人間で、母を含めいろいろな人を痛めつけた、という主旨の発言をしたかと思えば、親孝行がしたかった
と言う。父が命をかけた財産を守りたいと言う(これが新経営陣に口出しするようになった理由)。「感謝と奉仕」を社是としていたはずが、一族の繁栄ばかり考えるようになった父を「堕落した資本家」と罵ったこともある。しかし、「父に愛されていたのは自分なんです」と85歳にもなって語るのである。
 

家族間の愛憎で成長した企業

最後に、「何のためにあれだけ積極的に事業を広げたのか」と聞かれた清二は、「父にできたことは自分でも」という「終わりのない実験」だったと答える。「世界を変える」「人のために」「国のために」「巨万の富を得る」というような志とはまるで違う。著者は「悲しい怨念と執着と愛の物語」と結ぶが、一言でいうとそうだろう。西武グループは、康次郎を中心とした、家族の愛憎をテコに拡大していったと言えるのではないか。それはそれで驚嘆するが、強烈な違和感が残った。