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『パラドックスの社会学[パワーアップ版]』(森下伸也ほか)の感想・書評

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基本情報

著者:森下伸也、君塚大学、宮本孝二
出版社:新曜社
ジャンル:社会学
刊行年:1998
ページ数:320
本体価格:2200円
 

評価

かなり面白い(★★★★1/2)
 

感想・書評

まっとうな社会学の入門書

タイトルは少し変わっているが、内容は一般向けに書かれた社会学の入門書である。
パラドックス」という言葉を広義にとらえ、「矛盾」以外にも、「葛藤」や「ジレンマ」も含まれている。
 
冒頭では、食欲や性欲は本能ではない、という話から入る。食べ物の選択や生殖行動は、集団生活で学習するものである、ということらしい。
これを入口に、逆説から社会を読み解く試みが貫かれている。
 

社会にある色々なパラドックス

扱っている範囲は非常に広い。これは社会学の特徴だろう。
論理、意識、人間存在、人間関係、家族、科学、文化、経済、権力など、あらゆるものを斜めから見るような印象。
 
ある結果を避けようとしたことでその結果を導いてしまう「自己成就」(いわゆる泥沼・悪循環)だとか、自分の役割をはっきり認識しているがゆえに自分の可能性を殺している(役割のパラドックス)とか、相反する要素を併せ持った異性(豪快なのに気配りできる人)に惹かれるとか、禁欲的プロテスタンティズムの行きついた先が資本主義であるとか、魅力的な分析が続く。

 

ソーシャルメディアの変な関係にも当てはまる

最近傾向が強くなっているよなあ、と思ったものを一つ取り上げる。
第2章「現代社会のパラドックス」の中に、「対人演技―舞台のうえの日常」という項がある。
 
少し長いが引用すると、「ある種の演技によって他者に映る自己の『印象操作』をするということが日常行為にはよくある。「ブリッ子」などはこの典型だ。また、演技をみせつけられる側すなわち観客もまた『それは演技だ』とわかっていてもわからないフリをして、『いい観客』ぶる演技をすることがある」と書かれている。
 
これはソーシャルメディア上の振る舞いを表していると思う。
特にFacebookは自分のいいところを見せるためのものだと私も思っているが、自分の投稿だけの話じゃないな、と気付かされた。
他人のリア充っぷりに内心軽くイラ立ちながらも、「いいね」を押したりする(まさにパラドックス!)。
 
自分が何かするたびにいちいち考えていたら何もできないが、なんとなく本質が見えてくる気にさせる本である。