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『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(高橋昌一郎)の感想・書評

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基本情報

出版社:筑摩書房(筑摩選書)
ジャンル:数学、伝記
刊行年:2014
ページ数:288
本体価格:1600円
 

評価

かなり面白い(★★★★)
 

感想・書評

3人の天才

「20世紀最高の知性。」というキャッチコピーだが、たぶん現在の社会の何パーセントかは、この人たちが描いた世界の上に成り立っていると思う。
3人とも異論のない天才だが、それぞれかなり異なる性格のようだ(誰でもそうか)。
 
ノイマンチューリングは、コンピュータの始祖として聞いたことがあった。
初めてプログラミングをした人がチューリングで、現在の「ハード」「ソフト」「メモリ」からなるコンピュータを考案したのがノイマンである。
 

ノイマンは秀才

3人とも間違いなく天才だが、本書から受ける印象だとノイマンは秀才だ。さまざまな分野で論文を発表し、世間から評価されている。
人間関係もおおむね良好で、国(アメリカ)の中枢機関でもリーダーシップを取っている。
 
原爆の開発を先導したのが日本人としては複雑なところだが、ゲーム理論に関する論文を発表したり(創始者ではなく体系化した)、アインシュタインゲーデルを第2次世界大戦の戦禍から救出したりと、行動の人でもある。

 

ゲーデルは天才

ゲーデルは普通の天才(おかしな言葉だが)のように見える。古典論理学を終結させた「完全性定理」を証明し、アリストテレス以来の天才論理学者と呼ばれたらしい(本職は数学者だけど)。
 
しかもその後、「不完全性定理」を証明するという、字面だけ見ると意味のわからない業績を残している。この不完全性定理は、数学基礎論の重要な要素で、ニュートン以来の衝撃と評されたようだ(ニュートン…のくだりは本書で読んだ気がするが、今は見つからない…。記憶違いだったら失礼)。
 

チューリングは奇才

3者を比べるとチューリングは奇才になると思うが、いわゆる天才を絵に書いたようなエピソードも多い。内向的だが、急に何かに興味を持つととてつもない知性を見せつける(いきなりマラソンを始めて、オリンピック候補に挙がったこともあったらしい。フォレストガンプみたいだ)。
 
チューリングの名を冠した言葉はたくさんあり、「チューリングマシン」「チューリングテスト」「チューリングパターン」などが挙げられる。また、ドイツの暗号「エニグマ」を解読した人物としても有名である。
コンピュータの概念を生み出し、さらにネットワークや人工知能も予見していて、とても1900年代前半の人とは思えない。
 

構成とエピソード選びのうまさ

本書のよさは、構成にある。各人の全盛期に行われた講演や、書かれた論文にしっかりページを割き、その後自伝的なエピソードが語られる。
チューリングの章に関しては『チューリング (B・ジャック・コープランドNTT出版からの引用も多いが、もとは雑誌に掲載された記事なので、そんなもんだろう。
 
ただ、著者が論理学者・哲学者だからか、ノイマンチューリングがコンピュータを生み出した功績にあまり触れられていないのが個人的には物足りない。
 
しかし、この3人を微妙にリンクさせながら、アインシュタインを筆頭に偉人を絡ませていくのはうまい。
ライターならもっと引き込むストーリーにできただろうが、本書は学術的評価をしているものなので、下手に盛り上げないのはプラスに働いていると思う。
 

天才からの刺激

個人的にはチューリングに興味があるので、蛇足ながら一つエピソードを紹介。
チューリングは自殺と思われる不審な死を遂げた。本書では触れられていないが、倒れていたベッドのかたわらには齧りかけのリンゴがあり、これがアップル社のロゴのモチーフといわれる。
 
このような逸話があとから生まれてくるのも、業績だけでなく人を惹きつける何かがあるのだろう。天才からしか得られない刺激があるような気がした。